動き続ける社会の中で、
樹は、
静かに佇み、
力強く生きている。
都市で生活する人々にとって、社会は常に変化し動き続けている。
新しいビルが建設され、新しい商品が販売され、新しいネットワークが生まれ、次々と価値観が更新されていく。
この社会の中に垣間みられる「静かさ」を大切にしたい。
気持ちを落ち着け、心を休める。そして、生きている事、命をより実感する為に。
ふと、ビルを見上げた時、空とともに枝葉の先が見えた。小さな枝葉の先は繊細で静かな存在だった。
そして、枝葉の先から樹の中心へ視線を移していくと、
重なり合う枝、生い茂る葉、たくましい幹が現れ、この樹の命を根源へさかのぼって見ていくようだった。
樹の身体は命の形そのものではないかと感じた。
タルボットが魅せた「冬の樹」の生命感に満ちた静かな佇まいを思い出す。
この社会の中で、樹は「静かさ」を持っている。その命の形に心惹かれた。
樹は、その幹、その枝を、
生きてきた時間をなぞるように、
滑らかに成長し、一度成した形を変える事はない。
生きてきた命の形。
凛と立つ樹を見上げれば、大空に命の形が広がってゆく。
私たちの隣で、樹は、静かに佇み、力強く生きている。
過去も、今も、未来も、変わることなく。
撮影:山口吉郎